精密な細工美に感動!京都の清水三年坂美術館に震える。
京都清水の産寧坂にある「清水三年坂美術館」は、明治期の超絶な七宝・金工・漆塗の技法で作られた美術工芸品を集めた美術館。
日本の江戸時代は、徳川幕府の統治の元で、戦の無い時代でした。そのため、戦士である武士たちは、武具の刀や大名道具をきらびやかに装飾することに熱中したのです。時代が下るにつれ、実戦よりも鑑賞に力を入れることができる背景がそこにあったのです。各地の藩を支配する大名・家臣・商人も世襲制であり、芸術の素養を深めました。その集大成が明治期の圧倒的な金工に表現されています。
清水三年坂美術館の精密な美を持つ金工・蒔絵
蒔絵:七香図文庫や後藤一乗の刀装具、鹿島一谷の花鳥図香炉などが所蔵品。
そこに、明治維新が起きて、世界がひっくり返りました。昔ながらの刀は、銃火器の前には無力で士農工商という身分制度も吹っ飛んだのです。そして、職を失った刀装具師たちは、明治期に製作品の方向性を大きく変えられることを強いられました。清水三年坂美術館は、そんな明治の工芸品を収集。館長は村田理如さん。
日本の文明開化・開国は、西洋の美術・工芸品に大きく影響を与え、ゴッホ・ガレの作品にジャポニズムの要素が見られます。パリ万国博覧会では、浮世絵などと共に、日本の工芸技術の素晴らしさが世界に紹介されて、世界中の金持ち・名士が、優れた品物を買い集めたのです。
自然の花鳥風月をはじめとした複雑な絵柄を蒔絵・金工・七宝などの技術で、工芸品に仕上げていくのは見事。
今回伺った時は、矢立と煙草入れ展を開催中でした。
数十点にのぼる矢立(現代の筆箱)と煙草入れは、当時の洒落者たちがこだわった部分が見られて、どれも面白い品々。
主な矢立・煙草入れの作品:清水三年坂美術館展覧
- 金唐革腰一つ提煙草入れ:森田藻己、お福、小沢秀楽
- 相良縫懐中煙草入れ:真田美政
- 茶道具仕込矢立:梶川文龍斎
- 野ざらし図矢立:松花斎光珉
常設展の方では、薩摩焼の華麗な装飾、七宝のきらびやかさに目を奪われました。
薩摩焼の花鳥図花瓶、蒔絵の硯や文庫など、素晴らしい技術と芸術だと思います。
そして、有名な方ではないものの久米野締太郎さんの桜の花瓶!
紫色の花瓶が、上手く下からライトアップされて、薄暗い美術館の中で華やかな色彩を振りまいていました。
幕末・明治にかけて頂点に達した工芸技術
残念ながら、この工芸秘術は、明治を頂点に廃れていきます。廃刀令や日本人の西洋化に伴い、美意識も西洋化し、画家や工芸作家が西洋の技術を取り入れていくに従い、日本の伝統的な技術への需要が減っていきます。そのため、技を伝える職人の数・質も減り続けており、現在においても後継者不足に悩むところ。
しかも、これだけの超絶技巧を身に着けるためには、幼い頃からの素養が必須、芸術的センス・技を磨くためには、子供のころからの鍛錬なくして頂点に到達することはかないません。現代は、義務教育・職業選択の自由があるからこそ、蒔絵・金工に幼い頃から触れられるのは、ほぼ世襲に限られてしまいます。昔のような徒弟制度、子だくさんの世だったからこそ生まれ得た芸術作品だったのかもしれません。
そう思うと、現代の技術を超える芸術作品の見方もまた変わってくるような気がいたします。
清水三年坂美術館は、京都駅・清水五条駅からのアクセスも便利ですし、周りは、産寧坂・高台寺・清水寺と見どころも多いので、何度も京都に通っている方は、一度、訪問してみてはいかがでしょう。こじんまりとした美術館ですから、混み合ってみたい作品を見られないということもないと思います。
出典:清水三年坂美術館 パンフレット
精巧な工芸品はまるで絵画か写真のよう。