茶碗の中の宇宙:東京国立近代博物館

茶碗の中の宇宙【楽茶碗】を東京国立近代美術館で見てきました。

時は戦国時代。茶の湯に適した茶碗として千利休が楽家初代長次郎に焼かせた【楽茶碗】。轆轤を使わずに手びねりで作り出す黒・赤の楽茶碗は、楽家に一子相伝で伝わる芸術品。

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そして、2017年の現代に、楽家歴代当主の作品を一覧で観覧できるのが、「茶碗の中の宇宙」と名づけられた展覧会。東京の国立近代美術館にて開催されていたので、行ってきました。京都にある楽美術館でもこれだけの作品を一度に見ることはなかなかできないでしょう。

初代長次郎から15代の楽吉左衛門の作品勢ぞろい

楽家は一子相伝で、楽茶碗を伝えています。なんと・・・何も教えないこと=一子相伝。代々の当主は、楽茶碗という縛りの中で、自身の創造性を発揮し、歴代当主に劣らない作品を作らねばなりません。音声ガイドプログラムで、15代当主の楽吉左衛門氏が、長次郎・千利休についてはもちろん、楽家の歴史を語ってくれています。

そのインタビューを聞きながら、現在の当主:楽吉左衛門氏の作品を見ていくと、歴代当主を超えなければいけない苦悩がまざまざと伝わってきます。黒・赤を追求するために、きらびやかなものをマスターしなければと金や銀を使う当主の姿。思わずフランスに旅立たったものの、悩んだのでしょうね。そばに合った木材を土にぶつけて作った作品もありました。

茶椀の中の宇宙音声ガイド

一子相伝の中。期待という重圧につぶされそうな彼の姿が浮かび上がってきます。

そのため、楽吉左衛門氏の作品には、こんなものは楽茶碗ではないという評価もあるでしょう。茶碗の感触もざらざらしており、手になじむ作品ではありません。吉左衛門氏は、どこから飲めばいいのか探すのも茶碗とのコミュニケーションだとインタビューで話しています。何度もいいますが、ほんとに悩んだのでしょうね。

名門「楽家」に生まれるということ。期待通りの作品を作らなければいけないプレッシャーは想像を絶します。もし、才能がなければ・・・誰か養子に取るのでしょうか。歴代当主はそうしてきたようで、養子の方はちらほらといらっしゃいます。

歴代当主の楽茶碗

主に黒楽茶碗を中心に歴代当主の作品を見ていきます。

初代長次郎の作品は、シンプル。いらないものをそぎ落とした侘び茶椀。黒楽は黒一色、赤楽は赤一色と鮮やかさとは別次元。この黒楽茶碗こそ至高と評した千利休の思いとは・・・どんなものだったのでしょうか。

花は野にあるように=千利休の言葉として、楽吉左衛門さんも紹介していました。そして、山本兼一さんの小説「利休にたずねよ」では、初代長次郎が、「苦しい重さはあの世に送りました」と言う程に苦労して茶碗を焼きます。

毅然とした気品のある茶碗。それでいて、はっとするほど軽く柔らかく、掌になじみ、こころに溶け込んでくる茶碗

この課題をもらった長次郎が作ったのが楽茶碗。

シンプルな茶碗をどうやって歴代当主に負けないオリジナル性をだせばいいのか?

歴代当主を苦しめたのが、シンプルに全てをそぎ落としたからこそ、足すことができないという苦悩。

それぞれの作品に好みはあると思います。私は、三代道入の作品が一番好きです。

常慶の長男として誕生。別名ノンコウと称され、後に樂歴代随一の名工とされています。本阿弥光悦と交流が深く、光悦の黒樂茶碗のほとんどは常慶、道入親子によって樂家の窯で焼かれています。楽家三代道入

今回の展覧会にも出ている本阿弥光悦との影響も受けて、はっと息を呑むような美しい茶碗を創り上げました。黒楽茶碗の銘「青山」「荒磯」、赤楽茶碗の銘「鵺」「僧正」など幾多の作品が並んでいました。

そうそう、当主の先代、14代覚入の作品には、「緑釉栄螺水指」の名前で大きなサザエの水指もありました。そして、16代目篤人さんの黒楽・赤楽茶碗も。

いずれ、京都の楽美術館そして滋賀の佐川美術館で、思うぞんぶん、楽焼の世界を堪能したいと思います。

東京国立近代美術館での開催は、2017年3月14日~5月21日まで。ご興味のある方はお早目に!

音声ガイドプログラムは、ナレーションが中谷美紀さん。映画「利休にたずねよ」では、利休の妻「宗恩」を演じた女優さん。特別インタビューに楽家15代当主「楽吉左衛門」さん。これ、お勧めです。


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